TELEPHONE SEX

 

先日、生まれて初めて、完全にヤリモクの出会い系サイトに登録しました。

 

 

十月になってあまりにも冷え込む日々が続くので人肌恋しくなったのでしょうか、登録した時の僕は正しい判断能力が欠けていたようですが、場のノリというやつの後押しもあった現場だったので、二歳サバを読んでそのサイトに登録したのでした。

 

 

このサイトの楽しみ方ですが、登録時に、いきなり電話番号というえげつないくらいの個人情報の入力を迫られますが、迷うことなく登録しましょう。すると、アバターが与えられるので、自身をアピールするためのステータスがいくつかの候補の中から選択してください。以下が僕のステータスです。

 

 

地域:東京

 

希望の年齢層:二十代の方(上限が六十代までありました)

 

業種:学生

 

血液型:AB

 

好みタイプ:巨乳系(巨乳とはまた違うのでしょうか)

 

好みスタイル:普通(スレンダーからぽっちゃりまで選べます)

 

出没時間:不定

 

何フェチ:尻(選択肢の豊富さがえげつなかったです)

 

S or M;普通

 

女の子としたいこと:まったりお話したい

 

 

これらの事項を打ち込み終わると、入会ボーナスとして2500ポイントが与えられます。このポイントがこのサイト内での通貨となっており、課金したり、未登録の友人を登録させたりすることによってポイントが増えます。

 

 

 

ユーザーはこのポイントを使って女性にメッセージを送ることができたり、通話したり、女性が出品している下着などを購入できます。男性と女性でシステムが違うようであり、女性の方はこのポイントを稼ぐことによって多少の収入を得ることができるようです。完全に男性は搾取される側になっています。

 

そのようなシステムのためか、ログインすると同時に信じられない人数の女性から

 

 

「突然だけど好きになっていい?」

 

「欲求不満だょ」

 

「みせあいっこしよ?」

 

「週末あいてますか?え●ちしたいんですけど」

 

「出会って3秒で即キスしたいな」

 

「即決してください。私とするか、しないか。」

 

 

といったメッセージが送信されてきます。出会って3秒で即キスってシュール過ぎませんか?

 

 

ともかく、男性ユーザーはこのようなサイバーエージェントからの連絡をうまいこと回避しつつ、女性ユーザーとの出会いを得なければなりません。冷静さを欠いていると、サイバーエージェントとの無為なメッセージのやり取りで貴重なポイントを失ってしまうからです。

 

 

さらに恐ろしいことに、ポイントを使い果たすとメッセージの表示までもがシャットアウトされ、相手から連絡が来てもそれすら確認できない状態になってしまいます。僕の場合は、その時に一緒に登録した友人が、柏在住の女性と食事の約束を電話でうまいこと取り付けたのを最後にポイントを使い果たし、相手からのメッセージが読めない状態になってしまい、後輩に土下座して登録を懇願するという、この世の地獄にも等しい光景を見ました。

 

 

 

正直、童貞気質の僕は、見ず知らずの女性との性交渉などとても怖くてできたモノではないのですが、人肌恋しいのも確かで、女性に優しく電話の相手になってもらいたい、即ち先述した「まったりお話したい」一心で「濡れマ●コでポコ●ン爆撃したいの」という自称エロテロリストの女性や、「嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い(以下、数行にわたって『嫌い』が続く)。。。。。あ。。。。。すみません。。。。。最近落ち込んでて。。。。。。」というエヴァのアスカみたいなメッセージを送ってくる弩級メンヘラ女からのメッセージは無視し、「こんばんは!プロフィール読みました!アニメや漫画が大好きみたいですね!何か好きな漫画とかってあるんですか?」と人間味の感じられるメッセージを送ってくださった23歳の保育士の女性にターゲットを絞り、「ハガレンです!」などと返信し、数回のメッセージのやり取りで、翌日に音声電話してくれる約束を取り付けました。その女性も下着を数多く出品し、「購入してくださった方、ありがとうございます!購入してくださったポイントでまた新しい下着を買います!」と下着で自転車操業をしている旨をプロフィール欄に書いてあったことが少し引っかかりましたが、ともかく、彼女からのメッセージの人間味を信じて、その日は終わりました。

 

 

 

そして翌日。夜の七時過ぎに約束をしていたので、それまでにラフォーレ原宿で開催されている野生爆弾くっきーのエキシビションに行き、そこでくっきーがデザインしたキャップを買い、思ったよりも人が多く混雑していたため、地元の駅に着いたのが七時少し過ぎと、約束の時間ちょうどになってしまいました。

 

 

焦っていたのか、人目もはばからず、スマートフォンで卑猥なサイトを地元の駅のホームで開いた僕は、保育士の女性から「仕事終わりました!電話大丈夫です!」とメッセージが来たのを確認し、メトロから地上へと続く階段を駆け上がりながら音声通話のボタンをタップしました。

 

 

 

 

プルルルル

 

 

プルルルル

 

 

がちゃ

 

 

あ、もしもし

 

 

はい

 

 

あの、○○というサイトの……

 

 

あぁ○○さんですか?

 

 

あ、そうですそうです。すみません、急に電話して

 

 

いえいえ、まってました

 

 

わぁ、ありがとうございます。僕、こういうサイト初めてなんで、ちょっと勝手がわからなくて、電話するのも始めてなんですよ

 

 

そうなんですかぁ

 

 

今仕事終わったんですか?

 

 

そうなんですぅ

 

 

介護士でしたっけ

 

 

保育士です

 

 

あぁ、なはは(意味のない笑い)、すみません

 

 

いえいえ(愛想笑い)

 

 

なんかこういう電話ってよくやられてるんですか?

 

 

たまにですね

 

 

へぇ、やっぱり出会いを求めてですかね

 

 

そうなんですよぉ、私の職場ってもう完全に女社会で、男の人が全然いなくて、いるとしても実習で来る学生さんとか、保護者の方とかで。流石に保護者の方に手ぇ出すわけにはいかないじゃないですかぁ

 

 

なはは、そうっすね

 

 

だからこうして登録したんです

 

 

あぁーそうなんすかぁ、いやー僕もですね、学生なのに出会いがさっぱりで、このサイトに申し訳ないんですけど(?)結構ノリで始めちゃったんですよねぇ

 

 

そうなんですかぁ

 

 

そうなんすよぉー、えぇ……(一瞬の沈黙)やっぱり、こういった電話って急に、なんか、あの、そっち系のこといわれたりするんすかねぇ、あの、僕はその、やっぱり、なんというか、そこまでの勇気がなくて、あの、まったりお話?あんな感じがいいなぁって思って、電話したんすよねぇ、えぇ、大丈夫っすかねぇ?

 

 

大丈夫だと思いますよぉ。割とそういう方も多いですし

 

 

あぁ、そうなんすかぁ。よかったぁ、なんか愚痴とか聞かされるんですか?

 

 

ういう方もいますねぇ

 

 

へぇー、大変ですね

 

 

いや、意外に平気ですよ。保育士なんで

 

 

あぁ、保育士だから、あの、そういう、メンタル的な……(言葉のチョイスミスに気づく。だが引き返せない)部分がしっかりしてるんすね

 

 

そうなのかなぁ(愛想笑い)

 

 

そうですよ……(再び一瞬の沈黙。一瞬の沈黙は会話のセクションが終わった合図だと認識した僕は、話題の転換を図る)。アニメが好きだとか…

 

 

はいそうなんですよ

 

 

僕もなんです、いや、自分、あんまり趣味がなくて、漫画とかアニメは一応好きなんですけど、オタクって程でもなくて(なぜか少し見栄を張る。オタクなのに)、プロフィールにはそう書いちゃったんですけど……NARUTOが好きなんですよね?

 

 

そうなんですよぉ、私はもう完全にオタクでぇ、NARUTOの事を語らせたら止まんなくなっちゃいますよぉ

 

なはは、そうなんですか。いや、僕も、NARUTOについてめちゃくちゃ詳しいわけではないですけど、少しは知ってて、でも、そういうやつと喋ってても面白くないっすよねぇ

 

 

そんなことないですよ。私も、アジカンが好きで、あ、リライトってハガレンの歌なんだって言う感じで知って、少しは知ってなくもないんですけど、やっぱり語れないですもん

 

 

 

やっぱそうなりますよねぇ。だから、一概にオタクと言っても、オタクであることは共通点ではないといいますか、そこで共感するものでもないんですよねぇ

 

 

 

そうですねぇ

 

 

って、なんの話してるんだ自分

 

 

あはは(笑い声)

 

 

やー、こんなしょうもない話を聞いてもらっちゃって嬉しいなぁ。初めて電話した人が優しいおねぇさんでよかったです

 

 

えぇ(笑)私、優しいですか?

 

 

優しいですよ!流石保育し……

 

 

(食い気味)ご利用、ありがとうございました

 

 

 

 

以上が僕と北海道の保育士である彼女の通話のおおまかな記録です。

 

 

8分間の通話だったので、実際にはもっと多く言葉を交わしたのでしょうが、会話の内容はほぼそのまんま記せたと思います。

 

 

最後の「ご利用、ありがとうございました」の部分、女性の声で突然アナウンスされたため、最初は彼女がふざけているのかと思いましたが、決してそんなことはなく、ただの無慈悲な運営からの通告でした。

 

 

とにかく、これでポイントを使い果たし、このサイトで一切の活動を封じられた僕は、彼女からその後、何やらメッセージが届いているのが確認できても、それを読むことは叶わず、小雨の降る夜の町に、傘もささずぽつんとスマホを握りしめ、立ち尽くしていました。

 

 

 

これで僕と彼女の話はおしまいです。

 

 

ここから先、何かのきっかけで彼女が東京にやってきて、人込みですれ違うことがあっても、彼女が僕に気づくことはないだろうし、僕が気づいても彼女を呼び止めることもできません。

 

 

 

なぜなら、彼女は僕の顔も知らないし、僕は、彼女に名前すら聞くことができなかったからです。

 


こんな話があります。

 


ある兄弟の兄が、精神科の先生のもとにやってきて、『弟は自分が雌鶏だと思い込んでいます』と相談に来ました。

医師は『すぐに入院させなさい』と言いましたが、兄は『でも、卵は欲しいのでね』



今回の話もこれに似ています。およそ非理性的で、不合理なことばかり。それでもポイントをつぎ込んでしまうのは、きっと、卵が欲しいからなのでしょう。

 

 

 

 

 

                           fin